先ごろ直木賞の栄冠に輝いた京極夏彦氏の『後巷説百物語』をはじめとして、NHKの名作ドラマ『日本の面影』のリバイバル放映や、石川鴻斎『夜窓鬼談』の現代語訳刊行、怪談文芸の大いなる先駆者に新たな光を当てた『文藝別冊 岡本綺堂』など、このところ、近代怪談文化の黎明期としての明治時代が、にわかにクローズアップされてきた気がしてならない。
 梨木香歩さんの新刊『家守綺譚』もまた、明治末期の世相風俗を背景に、ジャパネスクな妖かしの世界を情感濃やかに描いた好著である。
「実はこれ、最初は本にするつもりで書き始めたわけではないのです。よく、仕事が煮詰まっているときなど、自分の楽しみのために、逃げ込める世界を書いたりします。いわば、レストランのコックが、仕事の合間にこそこそっとつくって食べる、自分用の賄い飯のようなもので、本来とても人様にお出しできる体裁(構成、プロット等)のものではない(と思っていた)のです。
 それをたまたま、常連客のような編集者に、つい親しくなった気軽さから油断して、メニューにはないんだけど、これ、食べる? と言った具合に読んでもらったのが、思いの外、喜んで頂けて、こちらとしても嬉しく、じゃあ、とばかり、書いたら送り、まるで読者が数人のメールマガジンみたいでした。
 それはそれで、学生時代のような気分で、気に入っていたのですが、いつの間にか本にする話が出て、こちらもついその気になり、作品に化かされたような半信半疑の気持ちで今に至っています。おだてられて思わぬ木に登ってしまったような」
「作品に化かされたよう」とは、いかにも本書にふさわしい成り立ちではないか。あえて古風な時代設定を選択された由縁は、どのあたりに?
「そういうわけですので、ごく自然に、好きだったのですね。
 仕事場が、あのシチュエーションに非常に近いものがありましたので、「これから、家守」と思ってワープロに向かうと、何も考えていなくても、自動書記のように手が動いたものです――それも不安なものがありましたが」
 主人公の亡き友が、床の間に掛けられた画の中から来訪する場面は、明治期の怪談文芸を代表する名品のひとつである幸田露伴の「観画談」を髣髴せしめるものがある。執筆にあたり、特に意識された作家・作品などはあるのだろうか。
「今回は意識して準備したわけではなく、楽しみだけで書きましたので、知らずに意識の底にストックされている自分の好きなもの、好きな世界、になったのでしょう。
 幸田露伴のご指摘、なるほど、確かにそれも、と思います。泉鏡花、折口信夫なども。異界との通路、洗練された型の一つなのかも知れませんね。けれど、本当に好きなのは、特に加工せず、素材がごろっと転がっている、という風情『遠野物語』、『耳袋』等のような)です。ですから、地方の出版社、新聞社の、明治大正昭和初期、出版された怪奇譚、連載された聞き書き集のようなものは、古本屋で見かければ必ず買います。意識したとしたら、そういうものでしょうか」
 なんとまあ、怪談之怪的には、思わず万歳三唱したくなるような回答ではないか! 本書が、怪談や妖怪愛好者の琴線を揺さぶる秘密も、そのあたりに由来するのだろう。
 著者自身も、異界や異形の存在を身近に感じたりすることがあるのだろうかと訊ねてみたところ――。
「ええ、親しくさせていただいています(笑)」
 と、見事に躱されてしまった。
 ちなみに「異界を描く」ことは、本書に限らず、梨木作品の根幹にかかわるテーマでもあるように思えるのだが……。
「実はあまり、異界ということは意識しないのです。そこで湧いてくる気配を、本当に何が起こっているのかを、きちんと伝えようとすれば、自然にそうなってしまうのです。私としてはリアリスティックに描写しているつもりなのですが。
 例えば黄昏時、子どもが誰もいない部屋でぼうっとしている、その子がどういう気持ちでいるのか、どういう恐れを抱いているのか、正確に表現しようと思えば、障子の陰を小鬼が走っているかも知れないし、遠くの空で竜が飛んでいるかも知れない」
 最後に、今後の執筆予定などを。
「今も「賄い飯」形式で書き続けています。順調に煮詰まり続けている限り、いつか続編も出ると思います。
 確実なところでは、『家守綺譚』中に出てくる、“土耳古に行った友人・村田”を主人公にした『村田エフェンディ滞土録』が、角川書店からこの4月に出版される予定です」)


なしき・かほ●鹿児島県生まれ。英国に留学し、児童文学者のベティ・モーガン・ボーエンに師事。『西の魔女が死んだ』(新潮文庫)で日本児童文学者協会新人賞、小学館文学賞を受賞、『裏庭』(新潮文庫)で児童文学ファンタジー大賞を受賞。著書に『丹生都比売』(原生林)、『ワニ―ジャングルの憂鬱草原の無関心』(理論社)、『りかさん』(新潮文庫)、『マジョモリ』『蟹塚縁起』(ともに理論社)、『からくりからくさ』(新潮文庫)などがある。

99年1月怪談之怪を結成してはや丸5年。怪談という名称が世の中に浸透しつつあるのは、怪談之怪の活動の成果か?! ということでいよいよ6年目となる今年、怪談之怪発起人の一人でもあり、『幻想文学』休刊でその活動を惜しまれた東雅夫氏を編集長に迎え、怪談専門誌を発行する運びといたしました。怪談を愛する多くの表現者たちが一堂に会する“日本唯一の怪談専門誌”を皆さまにお届けすべく、日夜励んでおります。小説創作あり、実話怪談あり、怪談本徹底レビューあり、旅ものあり、特集ありといった充実度。内容も怪談、霊的なもの、神仏など日本の文化の古層を探るべく、広く深く展開していく予定。今後、この怪談之怪コーナーで、どのような表現者がどんな形で参加されるのかを紹介していきます。
怪談之怪の発起人たちも参加します! 乞うご期待!

書籍タイトル ●『幽(ゆう)』(仮)〜ダ・ヴィンチ臨時増刊
創刊発売予定 ●2004年6月刊行予定
編集長 ●東 雅夫
発売元 ●メディアファクトリー ダ・ヴィンチ編集部
判型 ●A5判(仮)
主な執筆陣(予定) ●京極夏彦、木原浩勝、中山一朗、加門七海、福澤徹三、平山夢明、秋山亜由子、唐沢俊一、小池壮彦、大田垣晴子、山田誠二、東雅夫ほか
問い合わせ先 ●ダ・ヴィンチ編集部

 

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