トリビュート 村上春樹!



発起人・古川日出男から
その人のデビュー作の冒頭には「完璧な文章なんて存在しない」と記されていた。たぶん、作家ならば誰だって“完璧な文章"をめざすのだと思い込んでいた僕は、そのマニフェストの完璧さにノックアウトされた。それから、その人はどうしたか? あたらしい文章のスタイルを模索しながらガリガリ進み、あたらしい作家の生きかたを呈示しながらタッタッタッタと独走しつづけて、自分のいる/獲得したポジションを「だから、なんなのさ?」といわんばかりに、いま現在も道を切り拓きつづけている。
 その人、村上春樹。
 ポスト“春樹"世代として書き手になれた僕たちは、しあわせだ。僕たちには「完璧な文章なんて存在しない」なるフレーズが、あたかも免罪符のように与えられて、ほとんど自由に作家でありつづけられるのだから。だから、僕たちはリスペクトを表わさなければならない。そう、僕たちはトリビュート・アルバムを作らなければならない。その人の本を読んで、小説という冒険に身を投じた若い作家たち――僕たち。いったい、どんなカバー演奏ができるのか? 手法はフリー。
 村上春樹作品のオリジナルの題名から霊感を得た? オーケイ。
 作中のたったワン・フレーズから物語を編んだ? オーケイ。
 おなじテーマとおなじ読後感を意図した? オーケイ。
 登場人物の別の視線を描き出す? もちろん、オーケイ。
 大切なのは、ばらばらな顔ぶれの、たばねられた志だ。最高のトリビュート・アルバムは、それぞれが個々に全力であること。ばらばらすぎて、オーケイ。完璧なカバー演奏なんて存在しない。そして、志のあるメンバーがここに集う。
 若い僕たちには、それしかないのかもしれないけれど。でも!
 
 
 

本「中国行きのスロウ・ボート」
ISBN4-87233-737-9
定価:本体850円(税別)
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「中国行きのスロウ・ボート」古川日出男
この文章は僕地震のエクソダス――『出トウキョウ記』であり、その失敗の連続だ。/具体的にいえば僕は三度脱出できなかった。(本文より)愛は確実に届けられる。だからこそ、今を生き続けるのだ。負けつづけた年代記から、決して逃げない「僕」の脱出記。
著書のことば
いっさいが過不足のない短編小説というのはあり得るのだろうか? 当然のように「そんなもん、ねえよ」と生意気に思っていた僕が、うわあパーフェクトだ、と叫んでしまったのが村上春樹著の『中国行きのスロウ・ボート』だった。
でも、どうして100パーセントと感じてしまったのか?
 僕のなかにその作品の場所があったのだ、はじめから。
 この『中国行きのスロウ・ボート』のための場所が。だから、読後に僕は鳥肌をたてた。
 それほどの作品をカバーする以上、僕は徹底的にリアルさを追及しなければならない。僕にとってのリアルを、だ。僕は「東京」という切り口にしようと決意した。オリジナル版に触れたことのある読者には、意味は解してもらえるはず。 東京と中国の距離を僕は描く。僕なりに――リアルに――僕の内側の“そのための場所"をノックして。
 ほとんど赤裸々に。レット・ゴー。
古川日出男 写真
古川日出男(ふるかわ・ひでお)
1966年福島県生まれ。早稲田大学第一文学部中退。編集プロダクション勤務、フリーライター、舞台演出家等を経て98年に『13』(角川文庫)で作家デビュー。4作目となる『アラビアの夜の種族』(角川書店)で第55回日本推理作家協会賞、第23回SF大賞受賞の2冠制覇を達成した。
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本「国境の南、太陽の西RMX」
ISBN4-87233-737-9
定価:本体750円(税別)
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「国境の南、太陽の西RMX」狗飼恭子
「わたしには思い出がないの」と彼女はよく僕に言う。/思い出がない?/そんなはずはない。思い出は誰にだってある。僕にだって過去があるのだから。(本文より)
年上の女性作家と暮らす、ウエイターの僕が、恋に破れた彼女に捧げる思い出のラブ・ストーリー。
著書のことば
 春樹さんの作品はほとんど大好きだけど、その中でわたしは「国境の南、太陽の西」が、一番気になる。
 それは、「学級委員長で性格が良くてしかも美人なクラスメイトに心惹かれながら、登校拒否気味で唇が分厚すぎて目つきの悪い女の子が気になる」、の「気になる」に近い。
「好きな理由」はいくらでもあげられるけど、「気になる理由」は「なんとなく」しかない。なんとなく気になるから、なんとなく目が離せなくて、ほかに彼女を気にしてる人はいるんだろうか、僕が守んなきゃいけないんじゃないのかな、なんて思ってしまうのだ。
 この企画の依頼が来たとき、やっぱり一番はじめに頭に浮かんだのは「国境の南、太陽の西」だった。けして、美人で頭が良い、一番人気の子ではなかった。

「国境の南、太陽の西RMX」も、なんとなく気になる物語に、なっているといいなと思う。
狗飼恭子 写真
狗飼恭子(いぬかい・きょうこ)
1974年埼玉県生まれ。92年「TOKYO FM」主催の「ショート・ストーリーグランプリ」にて佳作受賞。高校在学中より『月刊カドカワ』に執筆し、93年ショートストーリー集『オレンジが歯にしみたから』(角川書店)を発刊。95年に小説第1作『冷蔵庫を壊す』(幻冬舎)を発表。以来、恋愛をテーマとした小説やエッセイを多数執筆。著書には『一緒にいたい人』『深い深い夢の中』『恋の罪』『忘れないからね』『好き』『薔薇の花の下』『低温火傷(1〜3)』『愛の病』(いずれも幻冬舎)などがある。
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本「ダンス・ダンス・ダンスRMX ――タイプライト・レッスン」
ISBN4-87233-737-9
定価:本体850円(税別)
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「ダンス・ダンス・ダンスRMX ――タイプライト・レッスン」荒木スミシ
かつて十三歳だった少女ユキ――彼女はその後、どのような女性になっているのだろうか?新進気鋭のの作家・荒木スミシが『ダンス・ダンス・ダンス』をモチーフに、大胆な想像力を果敢に駆使してリミックス。文字が踊る。羊男も踊る。そして <僕>は一体、どのようなダンス・ステップを踏めばいいのだろうか?
著書のことば
 ──60年代を過ごせなかった僕達の青春はいつも失われている。
 なんだか盗人(シーフ)にでもやられたみたいに、もう何か、が失われてしまっていて、既に祭りの後。そんな気分を抱いている人は僕達の世代には案外多いのかもしれない。
 僕は今回の小説でその「失われた青春」への決着を着けようとした。それをやることをどこか避けてきたように思える。それはまるで夏休みの宿題のようにずっと後回しにしてきたのだ。
 やるだろ?
 OK。
 音楽のリミックスとの違いはもっと精神的だということかな。小説(物語)というものを村上春樹氏の作品から教わった僕にとって、その作業は「距離」を確かめ、更に「現代」や「自分」やといったものを自然と浮かび上がらせる、行程だったように思える。こういう方法で氏への感謝を表現できたのは嬉しい。
 僕の『ダンス・ダンス・ダンスRMX』では登場人物のユキが(ある方法を使って)26歳になって登場する。羊男も踊る。いったいこの現代にどんなダンスを踊ればいいのだろうか???
 決着です☆
荒木スミシ 写真
荒木スミシ(あらき・すみし)
1968年兵庫県生まれ。87年、フジテレビヤングシナリオ大賞・佳作入選。95年に詩集『月のナイフ』、97年『シンプルライフ・シンドローム』を自費出版。2000年、同名小説の改筆「メジャー」版を発表(幻冬舎)。同年、自身が監督した映画版を公開。2001年『グッバイ・チョコレート・ヘヴン』『チョコレート・ヘヴン・ミント』を発表(どちらも幻冬舎文庫)。2002年『ホワイト・チョコレート・ヘヴン』をオンデマンド出版。
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本「回転木馬のデッド・ヒートRMX」
ISBN4-87233-737-9
定価:本体850円(税別)
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「回転木馬のデッド・ヒートRMX」素樹文生
相手が作家だと知ったうえで、あえて語られる個人的な話。そこには「小説として語られたほうが幸せな場合」もあるのではないか? 喫煙することで「生」を確認する男。寂しさを埋めるためにピアスの穴をあけた女。ふたりの過去と現在を「物語」に解き放つ、素樹文生による初の小説集(にしてリミックス)。
著書のことば
●カヴァーした村上作品へのオマージュ
オマージュってなんでしたっけ? トリビュートの他にもまだ何かやらせるつもりなんですか?
●同じく、カヴァーしようと思われた理由
原作の本は地味だけど、文体のキレが最高で、個々の物語が魅力的で大好きだから。
●ご執筆に際して心掛けたこと
真似しないで、盗んだり、勉強させていただいたりしました。いやあ、得るものが多かった。
●シリーズご参加を決めた初心と経緯
音楽で言うところのカバー・トリビュートアルバムが好きなのと、文学がもっと楽しめるんだってことと、いろいろな人に自分の作品を読んでもらいたいからということ。
●村上春樹という作家への想い
この方からお言葉を頂けたら、直木賞もらうより嬉しいですよ。いやあ、この人の書くものは素晴らしい。素晴らしいですよ。
素樹文生 写真
素樹文生(もとぎ・ふみお)
ニューヨーク生まれ。広告代理店勤務、出版社勤務を経て、1996年『上海の西、デリーの東』(新潮社/新潮文庫)でデビュー。他の著作には『旅々オートバイ』『クミコハウス』(ともに新潮文庫)、『ワンダラン!』(新潮社)『ゆるゆる日記』(求龍堂)などがある。2003年、新刊エッセイ『愛のモンダイ』(メディアファクトリー)を発表。
http://www.motogi.com
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ABOUT OF COVER ART WORK
今回、同時刊行した4作品のカバー。実は1枚のイラストを分割して、4冊並べてみると絵が繋がる仕組みになっています。アートワークは近年、国内外で高い評価を寄せられている古武家賢太郎さん。氏の未発表作品から、良質かつデザイン・コンセプトに適した1枚を選ばせていただきました。
古武家賢太郎(こぶけ・けんたろう)
1975年広島県生まれ。桑沢デザイン研究所卒業。1998年、ガーディアン・ガーデン『ひとつぼ展』入選。2002年、パリのサンペール・ギャラリーをはじめ、東京のリトルモア・ギャラリーやサイン・ギャラリーなどで個展を開催。2003年、作品集『START』(リトルモア刊)を発表。また、ファッション・ブランド < COMME des GARCONS JUNYA WATANABE man PINK > とのコラボレーションを行なう。
ブック★デザイン藤本やすし+キャップ(すじもとやすし+きゃっぷ)
1950年愛知県生まれ。平凡社を経て、83年にデザイン事務所「キャップ」を設立。これまで手がけた雑誌は『マリ・クレール』(85-97年)、『流行通信』(88-89、99年?)、『太陽』(90-2000年)、『BRUTUS』(96年?)、『GINZA』などファッション、カルチャー誌のアートディレクション多数。雑誌のほか、多くの書籍のブックデザインを手がける。
books



村上春樹トリビュート小説集<RMXシリーズ>今後のおしらせ
予告 その1
このたび同時刊行の4作品は、いわばペーパーバック仕様の<第1期シングル・カット・バージョン>となります。なお今秋には、各作品を1冊に収録した<ミニ・アルバム・バージョン>も刊行予定。みなさまの書棚の保存版として、重厚な合本仕様にもご期待ください。
予告 その2
シリーズと銘打つからには、もちろん第2期刊行を来春に予定しております。気になるラインナップは……いまはまだ明かすことはできませんが、ジャンルを超えたバラエティーに富んだ作家陣によるRMX競作にご期待ください。
お問い合せ
メディアファクトリー メディアファクトリー ダ・ヴィンチ編集部 岸本亜紀
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