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「つめたい石」立花腑楽 PDF プリント メール

8、9月のテーマ「熱帯夜」


 

つめたい石

立花腑楽

 


 霊園内の樹木が、日中に溜め込んだ熱気を一斉に吐き出している。きっとジャングルの夜というのは、こんな感じなんだろうなと思った。闇とフィトンチッドの濃厚なスープの中で、僕はじっとりと湿っていく。緑の香りの中には、線香の匂いと、ほんの僅かな汗の臭いが甘く溶け込んでいた。
 「それは君の家のお墓なの?」
 聞いた瞬間、とんでもなく見当外れな質問だったなと思った。だけど、じゃあ何がこの場に相応しい質問だったのか、スープ状の大気でふやけてしまった僕の脳みそは、気の利いた答えを返してはくれない。
 「別に。どこか知らない家の」
 墓石に抱きついている少女は、事も無げにそう答えた。彼女のさめざめと白い腕が、まだ角が凛と残っている真新しい御影石に絡みついている。それが闇に慣れた僕の目に鮮やかに映っていた。
 「やっぱり、新しいのじゃないと駄目ね。古いのは苔でガサガサしてて気持ち悪いもん」
 彼女はそう言いながら、それが愛しい相手の胸板であるかのように、方柱型の石に頬ずりをする。それが涼しげで、凄く気持ちよさそうな表情だったから、僕は何故だかわからないけど、ほんの少しドキドキしてしまった。
 「暑いの? 顔、赤いよ」
 指摘されて、僕はますます顔が紅潮するのを感じた。きっと彼女の白い顔とは対照的な有り様になっているに違いない。その様子を見て、「仕方ないよ。ほんと暑い夜だもん」と、彼女はくすくすと悪戯っぽく微笑んだ。僕の妙な気持ちの変化は、どうやら彼女には悟られずに済んだみたいだ。少し安堵する。
 「ほら、おいでよ。気持ちいいよ、ひんやりしていて」
 少女はすっと横に避けて、僕のためにスペースを作ってくれた。そこに腰を降ろすと、ちょうど墓石を挟み、彼女と向かい合う格好になった。御影石の表面に触れてみると、所々、彼女の汗でぬらぬらと濡れている。その感触に、僕はまた少しだけ妙な気分になった。
 彼女は、墓石の前面に片頬を貼り付かせた状態で、僕を見ている。「ほら、冷たいよ?」と視線が誘っている。彼女の手が、墓石側とは逆の頬に添えられる。ゆっくりとした圧力で、僕の頬は墓石に押しつけられた。石はすっかり大気と同じ温度になっていて、彼女が言うほどは冷たくは無い。むしろ――
 「ね、冷たいでしょ冷たいでしょ冷たいでしょ冷たいでしょ……」
 僕の顔を墓石に押しつける彼女の手、その力はどんどんと強くなって……。
 その手の方が、よほどひんやりと冷たいなと思った。
 
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