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1月のテーマ「神社」
「帰ってきた男」
山村幽星
欅の老樹が鬱蒼と茂ったなかに古杜が建っている。瑞垣が巡らせてあり、下の小道から、石段を上がって、木陰のなかをまっすぐ行ったところに拝殿がある。拝殿をまわりこんだおくに、お稲荷の社と、古社のいわれを書いた石碑がおかれている。
夕暮れどき、仕事帰りにたまたま通りかかり、よってみることにした。石段を上がるにつれ、拝殿の前が開かれ、両脇に提灯が立てられ、いつもと様子がちがっているのが見えた。なにか胸騒ぎがして、拝殿に引寄せられていった。水色の袴をはいた禰宜が、やってくる人を出迎えるように拝殿の前にたっていて、彼が近づいてくると、じっと相手の顔を見守り、
「おや、とうとう帰ってきたんですね。長らくお待ちしていました」
彼は、そういわれてどぎまぎしていたが、さあとうながされ、何気なく拝殿を上がった。なかでは羽織に着物姿の人たちが、向かいあって座っていた。座には瓶子が置かれ、盃をとってお神酒を頂いている。差し出されるままに盃に受けて、うやうやしく飲んだ。スルメとウルメが出されている。
「これはこれは、今までどうしていたんですか。いつか戻ってくるといって、こちらを出ていったきり、音沙汰もなく、どうしたのかとずっと噂していたんですよ。どうしていたんですか」
「いや、思うところあって、むこうでめをだすつもりでいたんですが、いっこうにままならず、消息をしらせる気力もなくして」オレはなにをいっているんだ。
彼は、いってから目をあげたさきに、絵馬がかかっているのを認めた。紅葉に鹿の描かれている絵馬であった。そこに、「奥山に紅葉ふみわけ鳴く鹿……」と読めた。父が奉納していった絵馬にちがいない。
「あの絵馬を奉納してでかけたのに、思いを果たすことができなかったのです」
そのとき、拝殿の前に、ぼーと人影が立った。彼は、目を見張った。着物姿の女性が深々と頭を下げて、手を合わせていたのだ。これは、家からでかけていった母ではないか。声を発しようとしたとき、女性はうつむいたまま体を返し、参道をすーとさっていった。
短歌を中央で認められるために、父は母を残して上京したのだ。むこうで思うようにいかずに行方しれずになった。母は、父が帰るのを祈っていた。お百度参りをしていたのが分かった。
「どうなされた」
「いえ、帰えるには帰ってきましたが、あまりにも遅すぎた。声きくときぞ秋はかなしき。私はとり返しのつかないことをしてしまった」
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